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柳蓮二/立海

*


コールが掛かってから、いやそれよりももうずっと前から、身動きどころか瞬きのひとつもできなかった、その体勢で、勝利者が立ち上がろうとするのを見ていた。圧縮した空気が爆発するような技と技の振動がまだ、目の前のコート上で続いている錯覚に陥っていた。ステージは汗と勝利とを染み込ませられて、未だ歓声と熱気が冷めやらない。ただひとつの試合の終了という出来事が蜃気楼のようにたちこめている。
掌を合わせてベンチに向いた姿が大きく傾くのが、痺れた脳に残る試合の記憶を振るい去った。真田副部長、と左隣で赤也が声を上げるのとどちらが先だっただろうか。否、赤也が立っていたのは左隣だったか右隣だったかも定かではない。息を呑み、駆け寄った。
「歩けるか、弦一郎」
返事はない。腕を肩に回し、汗と泥にまみれた体を半分抱えるようにして支えた。熱い。
掠れた呼吸で、目を見開き、小刻みに震えている。疲労した体重を預かるつもりでそうしたのだが、ぞっとするほど軽かった。
日陰のベンチへ座らせ、口々に名を呼ぶ部員にアイシングの手配をさせた。脚が、一目で分かるほど変色し酷く痛んでいる。向かってしゃがみ込み、濡れたタオルを誰かから受け取った。はたはたと汗が落ち、地面に染みを作ってゆく。
「タオルを首に巻いてやってくれ。強く絞って」
空中を散る汗がフラッシュバックする。髪先を伝って落ちるときの。打球を仕留めたときの。移動と逆方向に飛ぶときの。
「ラケット」
感情の籠った丸井の声に初めて気づく。筋の走った右腕のリストバンドの先に、弦一郎はまだ、ぼろぼろのグリップを握りしめていた。痙攣しているその腕を掴む。肌の間で砂の感触がした。
ラケットを持っていることにすら気が付かなかった己の不注意に、驚く。同時に、手のひらの中のコートの砂、目の前の男がたった今まで闘っていた場所のそれが、試合の映像とともに再び自分の脳裏に蘇る。
「落ち着け、試合は終わった。」
真正面から見上げ、虚ろに燃える瞳に叫ぶ。肩で息をしたまま一言も声を発さないまま、心臓の中で煮えたぎり膨張し続けようとする熱をひたすら封じ込めているように見えた。
「お前の勝利だ。試合は終わった。…落ち着け」
はじめて自分の声が耳に届く。右手からラケットをもぎ取る。
動転しているのは俺のほうだ。試合は、終わった。
息を吐きながらゆっくりと瞬きをする弦一郎の瞼に促されるように、視線を脚に降ろした。全く動かず地面に生えたような弦一郎の足を濡れタオルで拭うと、土の汚れと自分自身の腕の震えが流れ落ちていった。タオルを渡した腕でスプレーを受け取る。視界に入らなくとも柳生の手が渡したのだと理解している。
「弦一郎」
噴き付けた冷気が指先にかかる。はた、再び汗が目の前を落ちた。
簡易な応急手当しかできない。脚への処置はもう終了していたが、顔は上げずに腕を伸ばした。立ち上がり、指示を出す。精市を目が合った。無言で、頷く。
「皆、次の精市の試合の準備を。すぐに始まるぞ」
なにか呻く声が聞こえた。寄り掛かるよう肩に額を当ててやる。帽子を取った弦一郎の頭は重く、濡れて上気していた。次から次から溢れるそれが胸へ染み込んでゆく。
「おめでとう」
全国大会で勝利して、弦一郎は泣いた。



*

蓮華萌えは唐突に来るから困り…ま…す…。いえ別に柳真じゃなくたって真柳だって全然いいんですが、最後真田が手塚に勝ててよかったなあ、ってすごく思った。ほんとにおめでとう弦一郎!弦一郎ー!
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